
「紫の鏡」は都市伝説の一種です。どんなものかというと「紫の鏡という言葉を20才になるまで覚えていると不幸になる・結婚できない・鏡の向こうに連れて行かれて死んでしまう」などと言った話です。
不幸や結婚できないはその後もずっと続くわけですが、死んでしまうなどのオカルト話の場合は、20才の誕生日に連れて行かれるだとか、事故に遭うとか創作の怪談エピソードが付随することが多いようです。
どうして20才なのかの理由ははっきりしませんが、成人という意味でしょう。ちなみにこの話を20才すぎてから聞いた場合は無害だそうです。幸い私がこの話を聞いたのも成人してからでしたので、「そんな都市伝説もあるんだな」という程度でした。
まあ実際にどうなったというような話ではないですが、今回取り上げたのは「紫の鏡」という色が気になったからです。
紫の鏡って?
鏡は銀色の金属の上にガラスが貼られたものが一般的です。ですので鏡の色と言えば、銀色、と言えるでしょう。神道の三種の神器や御神体で鏡が祀られている場合もありますが、これは金属の表面を磨いたもので、やはり銀色です。
表面が紫色のものはないので、言葉通りの鏡を探すとしたら、装飾や手鏡の持ち手などが紫色のものになるのでしょうか?
……と、思っていたら、この紫の鏡の怪談のバリエーションのひとつにはこんなものがありました。
「とある少女が悪戯で手鏡を紫色の絵の具で塗りつぶした。この紫色の絵の具はどんなに洗っても落ちなかった」
これが呪いの発動になり、衰弱して少女は亡くなってしまった…となるようです。
つまり紫の鏡とは、鏡の表面を物理的に塗って紫色にした鏡だったというわけでした。
まあ、この手の呪いの言葉はインパクト重視で、実際の意味は深く考えないものなので、絵の具で塗った物語も後付けでできた可能性は高いと思われます。黄色で塗っていたら黄色の鏡になるわけですし、この少女の物語だと、紫である理由がないですから。
紫の鏡の話自体の由来もはっきりしませんが、ここ十数年くらいか比較的新しく作られた都市伝説のようです。私は成人してから聞きましたが、関西の方で先に広まったような話もネットで検索するとありました。近年になって漫画やアニメなど創作物語か、怪談系の本の作家・ライターが作った話なのではないかと思っていますが……、そう分析してしまうと夢がない?
では、なぜ紫?
怪談で出てくる色は血の比喩としての赤が多いようです。ですが今回は紫。一般的には紫は、高貴な色を示しますが、この話の中では、鏡に写る人(物語の中では少女であり、あなたを指してもいる)の顔色を想定しているのでしょう。
具合が悪い時、顔色が悪い時と言われる時は一般的に、紫色や土気色などのくすんだ顔色の時が多い。寒い時にも唇や指先が紫色になりますが、こういったものはチアノーゼ状態と呼ばれます。
一方で怪談では怖い色として使われる赤味を帯びた頬は、顔色では健康や少女を示す色だったりします。
また痣やゾンビの肌は紫色です。前述のチアノーゼは、亡くなった方の遺体にも表れる症状です。そういったところからも、紫の顔色は、病いやこの世のものではない存在を連想させる色と言えます。
加えて児童心理学の本だったか、子供に絵を描かせると、精神的に不安定な子供は紫色のクレヨンを多用するという話がありました。死期の近い子供は紫色を多用するというまさしくオカルトチックな話も読んだことがあります。
つまり鏡に映る人の顔が紫色ということは、具合が悪いという状況を指している。紫の鏡は、写る人の健康状態がよくない、ひいては死期が近いことを暗示させる言葉になっているわけです。
実際は都市伝説ですから、そこまで考えて暗示に掛かってしまう人はいないのではと思います。紫の鏡って何?というところでイメージにつまづき、何となくおどろおどろしい響き、程度に受け取る場合が多いのではないでしょうか。
創作という観点で考えてみた時には、赤だとありきたりだから捻りを利かせて何となくインパクトのある紫を使った、なんて穿った見方もできるかもしれません。